受験クラブ〜知りたい情報アレコレ解説〜

受験生に限らず、高みを目指す上で「勉強」の次に重要なのは「情報」。自らの未来を切り拓くために、「何者か」になるために、国内外の様々な研究・データを参考に考えていきます。

学習面からも「左利き」は直した方が良いの?

目次

概要

この記事では、右利きと左利きの脳の違いが学習や勉強にどのような影響を与えるのかを、国内外の研究論文をもとに具体的な数値やデータを交えてご紹介します。利き手は単に「文字を書く手」や「箸を持つ手」が違うだけの問題ではなく、脳の構造や機能に関わる重要な要素として注目されてきました。この記事を通じて、利き手と脳の関係を理解し、お子さんやご自身の学習スタイルを見直すヒントになれば幸いです。


 

1. はじめに

日常生活の中で、ほとんどの人が無意識に使っている「利き手」。日本だけでなく世界規模で見ても、右利きが多数派であることはよく知られています。実際、世界人口のおよそ85〜90%は右利きとされており、左利きは全体の10〜15%程度というのが定説です(Knecht et al., 2000)。

なぜ右利きが多数派なのか、また少数派である左利きにはどのような特徴があるのかは、古くから多くの研究者たちが注目してきました。近年では脳科学の進歩により、利き手が脳機能や構造にどのような影響を与えるのかが少しずつ解明されています。特に言語機能の左右差(脳のどちらの半球が主に言語を司るか)や、空間認知能力との関連など、勉強や学習にかかわる分野でも多くの成果が報告されています。

本記事では、右利きと左利きの脳の違いや、利き手が学習に及ぼす影響について、研究データとともに詳しく解説していきます。


 

2. 「利き手」と脳の関連を示す研究データ

2-1. 右利きが圧倒的多数

先にも触れたように、一般に全人口の約85〜90%が右利きとされています。大規模研究の一つとして、Knechtら(2000年)は約1600名の被験者を対象に、利き手と脳の言語優位半球の関係を調べています(Knecht et al., 2000, Brain, 123(12), 2512–2518)。その結果、右利きの約95%が左半球言語優位であることが確認され、右利きの脳機能においては左半球優位が極めて高い割合を占めることが示唆されました。

2-2. 左利きと脳の言語優位性

左利きの人々に注目すると、Knechtら(2000年)の研究では、左利きのおよそ70〜75%も左半球言語優位であると報告されています。残りの25〜30%に関しては、右半球が優位もしくは左右両半球がほぼ同程度に言語を司っている(両側優位)ケースがみられました。

また、Tzourio-Mazoyerら(2012年)の研究(Tzourio-Mazoyer et al., 2012, PLoS ONE, 7(6): e37959)では、子どもから大人までを対象に脳の活動パターンをfMRIで比較した結果、左利きグループは右利きグループに比べて脳活動の左右差が小さい傾向が確認されました。これは、左利きの脳が全体的に左右両方を柔軟に使う可能性を示唆しています。

2-3. 日本国内の調査事例

日本の人口における左利きの割合は正確には不明ですが、一般的には約10%前後と推定されています。国内の大規模な実態調査は数が限られていますが、小規模な学校現場の調査などで同様の比率が確認されており、世界的傾向とも合致する結果が出ています(文部科学省関連調査データより)。


 

3. 右利きに多く見られる脳の特徴

3-1. 左半球優位の言語機能

前述の通り、右利きの約95%は左半球が言語優位です。言語や論理的思考、数的処理などは左半球が司るとされており、右利きの人は日常的にこうした論理言語能力を使う脳の領域が発達しやすいと言われています。

3-2. 効率的な情報処理

右利きの脳は左右の役割分担が比較的はっきりしているため、情報処理が迅速に行われる場合が多いと指摘されています。特に、言語理解や論理的推論といった作業では、左半球が中心となってスムーズに処理されやすいという報告があります。

3-3. 統計的多数派ゆえの環境要因

右利きが多数派であるため、日常生活のあらゆる道具や教育環境が右利きに合わせて設計されています。鉛筆の持ち方からノートの作りまで、右利き向けがデフォルトになっているため、学習面での利便性が高い傾向にあります。これは、右利きが脳機能面だけでなく、環境的にも学習をしやすい状況にあるといえます。


 

4. 左利きに多く見られる脳の特徴

4-1. 多様な言語優位性

左利きの約70〜75%は左半球優位ですが、残り約25〜30%の人には右半球優位両半球優位の言語機能が見られます。つまり、左利きの脳にはより多様なパターンが存在すると言えます。

4-2. 空間認知・創造性との関連

右半球は空間認知や芸術的表現に関する領域が発達しやすいとされます。左利きで右半球が優位、もしくは左右差が少ない場合、空間認知能力や創造力が高い傾向があるとの研究報告があります(Geschwind & Galaburda, 1985)。ただし、必ずしもすべての左利きが芸術的に優れているわけではなく、個人差も大きいと考えられています。

4-3. 学習環境での不便さ

多くの学用品やツールは右利き用に作られているため、左利きの子どもは道具の使いづらさを感じることが少なくありません。例えば、はさみや書道の筆の持ち方、文字を書く際のノートへの腕の配置など、学習時に不便を覚えるケースが報告されています。そのため、利き手に合った学習道具の整備や、左利きに配慮した指導が大切とされています。


 

5. 学習・勉強面への影響

5-1. 言語学習における左右差

右利きの人の多くは左半球優位で、論理的思考・言語能力が発達しやすい傾向にあります。一方、左利きの人は言語優位半球が必ずしも左とは限らず、複数の脳領域を統合的に使用することで独自の情報処理を行っている可能性が指摘されています。
しかし、学力テストなどの平均点で見る限り、利き手による学力差は統計的には顕著ではないというデータもあります(文部科学省関連調査)。つまり、脳の使い方が違っていても、最終的な学習パフォーマンスには大きな差が生じにくいと考えられます。

5-2. 書く・描く際の利便性

書く作業は学習の大部分を占めるため、右利き用に作られたペンやノートの配置は、左利きの子どもにとっては不便な場合があります。例えば、左から右に文字を書く言語(日本語の横書きや英語など)では、左利きだと手で文字を隠してしまい見えづらいというデメリットがあります。これが書くスピードノートの取りやすさに影響を及ぼし、学習効率を下げる要因になり得ます。

5-3. 筆記試験での時間差

左利きの受験生や学生の中には、長文の筆記試験などでわずかに右利きよりも時間がかかるという声もあります。これは、道具の使いづらさ文字が手で隠れることなどの物理的要因が大きいと推測されています。脳機能の差というよりは、環境的な配慮の不足が要因となるケースが多いようです。


 

6. 利き手と脳の多様性を活かす学習法

6-1. 道具選びの工夫

左利き用ハサミや筆記具など、近年は左利きの学習者向けの商品が増えています。これらを活用することで、物理的なストレスを減らし、学習に集中しやすくなります。

  • 左利き用ペン:インクがにじみにくい設計
  • ノートの向き:左側を開いて使いやすいレイアウト
  • 机の配置:左側にも十分なスペースがある環境

6-2. 脳の柔軟性を活かす

左利きの脳は情報処理を左右両方で行う傾向がやや高いとされ、右利きでも訓練次第で左右両半球をバランスよく使うことができる可能性があります。

  • イメージトレーニン:絵や図を多用した学習
  • 音読や朗読:言語領域と聴覚認知を同時に刺激
  • クロスワードやパズル:左右の脳を連携させて解く作業

こうした学習方法で左右両半球を活発に使う訓練をすることは、記憶力や発想力の向上につながると報告されています。

6-3. 教育現場での配慮

教師や保護者が子どもの利き手を強制的に矯正しないことも重要です。脳の自然な発達に合わせて、本人が使いやすい手を伸ばすことが長期的に見て良い結果をもたらすと考えられています。また、黒板やプリントの配置など、ちょっとした工夫で左利きの学習効率を高められる場合もあります。


 

7. まとめ

右利きと左利きの脳の違いは、言語優位半球の傾向や左右差など、研究データから一定の傾向が明らかになっています。しかし、学習面での最終的な成果には、思ったほど大きな差が出ないというのが多くの研究からの示唆です。それよりも、学習者に合った道具や環境づくりが学習効率を左右するという点が強調されています。

  • 右利きの約95%は左半球言語優位
  • 左利きの約70〜75%は左半球言語優位、残りは右半球優位あるいは両半球優位
  • 学習・筆記における不便さは物理的要因が大きい
  • 左利きを無理に矯正しないことが重要
  • 脳の多様性を活かした学習方法(視覚的教材、音読・朗読、パズルなど)は、どちらの利き手でも有効

「利き手」は、脳の個性を反映している一つの要素にすぎません。脳の多様性を否定するのではなく、活かすことこそが、学習効果を最大化するカギになるでしょう。右利き・左利きにかかわらず、一人ひとりが最適な学習環境と学習法を見つけることが、学力向上や自己実現への第一歩となります。


主な参考文献・出典

学習者それぞれの利き手と脳の特徴を理解し、無理なく自然に学習を継続できる環境を整えることが、より良い学習成果につながるはずです。